横須賀保育ママ乳児死亡事故に関して保育園園長が思うこと

雑記

市と保育ママに5千万円超の支払い命じる 生後4カ月の乳児死亡事故

2010年9月、横須賀市の家庭保育福祉員(保育ママ)の当時40代の女性の自宅で保育していた生後4カ月の男児が死亡した事故で、母親(44)=同市=が福祉員と市を相手に、約7148万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、横浜地裁横須賀支部(梶智紀裁判長)は25日、福祉員の注意義務違反と市の指導研修実施義務違反を認め、約5257万円の支払いを命じた。

https://news.yahoo.co.jp/articles/56f9df6fbf8cfc58446e4cceaf590d1ac97dfc73

とてもいたましい事故でした。

この判決が出たということは、記事からは読み取りきれませんが午睡チェックを怠っていた以上に過失が認められた結果でしょう。

保育士として思うこと

yahooニュースのコメント欄について、それぞれに保育士としてのポジショントークをしたいと思います。

午睡チェックは0歳5分に一回、1〜2歳10分に一回が最低基準

親でも5分に1度赤ちゃん確認してる人いないと思うけど…。
家事もあるし兄弟いたら尚更。
詰まらせた時泣いてくれたらまだしも、窒息なら泣けなかっただろうし、他の子がうるさくしてたらちょっとの変化に気付くのは難しい。親からしてみたら許せない悲しい事故だけど、誰も攻めようが無い気がします…

していない親が多いとしても、お金をもらって業務として預かるなら当然の行為です。実際大した手間でもありません。

これはそのとおりですが、今回の件は自治体の認可事業(家庭保育福祉員)なので認可基準に則った保育体制が取られなければなりません。

いわゆる午睡チェック(昼寝中の体勢、呼気、顔色などのチェック)は、0歳児なら5分に一回、1〜2歳児なら10分に一回、こども一人ひとりに対して行い記録をとるのが最低基準です。(自治体によって多少異なります。)

(なお、3歳以上は一人ひとりの記録をとる義務はなくなります。)この基準を「常態的に」満たしていなかったなら擁護はできないでしょう。

ただ、状況を把握していない外部の人間が正論という武器でむやみに攻撃する必要はありません。

人を恨むべからず

これは保育ママかわいそう こう言う事があるから やりたい人がいなくなるんじゃあ?
つまらせた時がたまたま親だったら訴訟出来なかった…。保育ママ 子供好きでやってた仕事 殺意があったわけじゃい…なんか気の毒に思えてくる。

保育士目指して保育士試験に望んでいましたが、なんだか怖くなりました。
他人の命を預かる責任はとても重いと思います。
しかし、預けている側の責任はもっと重いと思います。
よく考えて、仕事とのやりくりと、子供の命を考えた方が良かったのでは?
シングルなら色々な支援もありますしね。でも、この記事の子は生後4ヶ月、、子育てしている身からしたら、早くてもせめて寝返りの出来る力がついた6か月頃から預けるのが良いかなと思いました。こんな訴訟事件があったら、今後保育園でも預かり基準や年齢の引き上げになりかねないと思います。お子さまが亡くなられたのは悲しく許したくない思いだとは思いますが、、
保育を現場でしていた人が虐待をしていたわけでもないのであれば、個人の責任でないことは火を見るよりも明らかです。

気の毒だけど、心配なら、子供が小さいうちは母親が見ればいいでしょ?
よくそんな小さな子を人に預けられるね?
色んな理由があるだろうけど、もしひとり親なら入ってくるお金もあるし、贅沢しなければ最低限の生活はできると思う。
無理なら作らなければよかった話。

どの意見もすごくわかるんですが、この件において「人」を責めるのはあまりに酷です。保育ママのことを責めても、預けた保護者のことを責めても不幸になる人を増やすだけで誰も救われません。

この判決が出るまで10年、保育ママも保護者もどれだけ自分を責めたでしょうか?時には他の人やモノを責めたでしょう。(そうでなければやっていられないほどの酷な状況に心が晒されたことでしょう)

それを想像するだけでも苦しくて仕方がありません。これ以上、誰かを苦しませる必要はありますか?

恨むべきは仕組みと制度(とスキル)

当事者でない我々だからこそ、冷静に今後どうあるべきかを議論するべきと思います。

事故防止のために何ができるかを考えていきたいですね。

呼気チェックセンサーの導入義務化

5~10分おきに呼吸を確認していれば防げたって言うのは簡単だよね。
こんな判決するなら、保育所もベビーシッターも呼吸センサーを義務付けて費用の補助も税金から出さないといけない。

センサー導入には自治体から補助金が出るはずです。義務化はたしかにされていません。

これが導入されていないことの背景、原因は、

  • 補助金申請の手続きが煩雑
  • 保育者のITスキルの未熟さ

このあたりが挙げられるかと思います。

補助金申請に関しては制度・仕組みの問題です。

(役所のみなさん。紙は論外ですが、もうエクセルで提出とかもやめませんか?この旗振りは市区町村ではなく都道府県レベルの自治体で主導しないと解決しません)

もう一つは保育者のITスキルの問題。

センサーには、呼気が一定時間止まると反応して警報が鳴るというものがあります。

もちろんこれを導入するだけでもいいですが、例えばスマホやタブレットで管理アプリを入れて午睡チェックの事務作業を劇的に楽にしてくれるサービスもあります。

はっきりいってどう考えても導入した方が作業負担は減ります。

ただ、この導入をためらう園、保育士は多く存在します。その理由はITスキル、知識の不足、それにつきます。

この課題については、園のトップが率先して学び、スキル知識を身につけていくことが必要です。

(スキルのことについては、いやいや人を責めているじゃないかと言われそうですが、スキル不足はスキルの低いその人を責めるものではなく、スキルがない状態そのものを問題視するものです。屁理屈ですかね?

もう一段掘り下げて、なぜスキルが低いのか(例えば育成機関や研修などで学ぶ機会を設けることはできないのかなど)を突き詰めていくべきと思います。)

新生児、乳児受け入れの是非

家庭内の方が起こりやすい事故。乳児保育事業を日本はやめたほうがいい。虐待したわけじゃない、見ていなかった訳じゃない。保護者が養育できる環境を整えられないことに問題がある。

今回のような窒息死、その他SIDS(乳幼児突然死症候群)や不慮の事故を含めた保育施設での死亡事故は、

0歳児が約50%を占め、3歳以下でおよそ90%になります。

保育施設でのこのような不幸な事故は、減らすことはできても0にすることは不可能です。

例えば、保育ママのように大人が1人で見ざるを得ない環境には3歳未満の乳児は預けられないようにしたり、

人員配置基準を変更して、預かる場合は必ず2人以上の体制を気づかなければならない(そのための補助金もつける)ことが必要でしょう。

もっと論を進めて、極論すれば「3歳未満は公的保育を行わない」という自治体が現れてもいいと思っています。

国家戦略特区などを絡めて地域の総合デザインの一環としてそういう自治体が現れる可能性もありえるのかと思っています。

危険を軽視しないこと、過度に縛られないことのバランス

保育に携わる人間なら誰しもが今回の件は他人事ではありません。

先に人を恨むな、とはいったものの、悲しいことにヒューマンエラーによって最悪の結果がもたらされることもあります。

変な言い方になりますが、保育業界に慣れれば慣れるほどリスクに対する意識は希薄になりがちです。

ただ、毎日、毎時間、毎分、毎秒、リスクのことばかり考えていては保育が成り立ちません。

だからこそ、こういう事象があるたびに自分ごととして捉えて今一度日々の業務を見直す、自分の意識を見直す時間を設けて、

そして(いつもやっているように)できる限りの対策をしながら前向きに保育をしたいですね。

参考図書の紹介

保育園と死亡事故を考える際に参考になる図書を紹介します。

ルポルタージュ上尾保育所事件の真相。実際の死亡事故事例が赤裸々に書かれた一冊。保育士は必読といえる一冊。猪熊 弘子 (著)

保護者向けに書かれていますが、SIDSに対して保育士としても理解が深まる一冊。

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